CONCEPT

起伏の激しい複雑な地形は日本の山岳地帯の特徴であり、このような地形では風が乱れやすく、乱れた風が風車に悪影響を与える可能性があります。したがって、複雑な地形上に風力発電を計画する際には、乱流のリスクに注意が必要です。安定かつ効率的なウインドファームを実現するために、風の乱れ、すなわち乱流のリスクを把握することは極めて重要です。そのために、下記のステップに従うことをお勧めします。

01

CFDによる観測マストの位置を検討

適切な位置は成功への第一歩

Case

地形

ステップ1ケース1 風力アニメ

山間地のサイトは複雑地形であるため、上流の地形に起因した乱流が発生する可 能性がある。したがって、風車位置と同様に観測マストの位置を決定するときには、乱流に配慮することが必要である。複雑地形サイトに設置された高さ60mの観測マスト位置において、気流シミュレーションを実施した例を左に示す。その結果は上流の地形により、気流の剥離が起き、乱流が発生している。マスト高さの半分以上は渦領域に入っているため風速変動が激しく、実際に非常に高い乱流強度が記録された。マスト設置前にCFDを実施することにより、設置位置が適切かどうか判断が可能となる。

技術文

Shading

ステップ1ケース2 Shading風力アニメzoom

地形

ステップ1ケース2 風力地形画像zoom

一般的に、風が斜面を駆け上がる際の増速効果により、標高が高ければ高いほど風が強くなります。しかし、周辺地形の影響により、そうならない場合があります。黒マスト位置の標高は赤マストより100m高い位置にあります。平均風速は赤より黒のほうが高いと期待したくなりますが、黒マストは赤マストより風速が1メートル弱いです。その原因は、上流に風を遮る地形によります。この遮る地形によって乱流が発生し、赤地点より風速の変動が大きく、突風が頻繁に出現します。風車は、風が強く突風が少ない位置に設置すべきであり、風車(観測マスト)も黒マスト位置より赤マスト位置の方が適切です。地形の影響によりサイト内で風況は大きく異なる可能性があるため、観測マストの位置を検討する際には、事前にCFDを行いましょう。

02

CFDによる風車位置を検討

乱流のリスクを事前に把握

Case

Case1

プロジェクト名: 太鼓山
場所: 京都府伊根町
風車: Lagerwey KW750-52
設置: 2001年11月

Vector

ステップ2ケース1 Vector風力アニメzoom

Vector

ステップ2ケース1 Vector風力アニメ2zoom

地形

ステップ2ケース1 風力地形画像zoom

風車(黒)の周辺で風向・風速が激しく変動する。その原因は上流の複雑地形、特に西側のV字形に窪む急斜面と考えられる。この局所的乱流でヨーモーターが頻繁に故障し、ヨーリングも破損した。高い修理費と機械の老朽化のため、風車を撤去する方針に固まっている。

Case2

プロジェクト名: 阿蘇車帰
場所: 熊本県阿蘇市
風車: 三菱重工 MWT-600
設置: 2005年10月

Shading

ステップ2ケース2 Shading風力アニメ1zoom

地形

ステップ2ケース1 風力地形画像zoom

風車は尾根から離れて設置されている。尾根から風が剥離することで周期的に渦が発生し、風車のローターに流れ込む。風車のローター面は完全に剥離渦領域の中にある。空間的に不均一に変動する風がブレードに負荷をかけた事により、風車の故障に至った。故障防止のため、風速8メートルを超えると運転制限することに。設備利用率に大きく影響している。

Case3

プロジェクト名: Coruxeiras
場所: スペイン・ガリシア
風車: Ecotecnia 74
設置: 2006年

Shading

ステップ2ケース3 Shading風力アニメzoom

地形

ステップ2ケース3 風力地形画像zoom

Speed Contour

ステップ2ケース3 Speed Countour風力アニメzoom

風速10メートル以上のとき、風車(赤)とは対照的に風車(黒)では振動が発生する。CFDの結果では、風車から400メートル上流方向の丘で風が剥離して、乱流が発生している。この乱流により非常に大きい水平・垂直風速差(シアー)を風車ローター面内に観察できる。これは振動の原因となる。過剰な振動を防ぐため、風速10メートル以上で運転停止をかけている。発電量・稼働率が大幅に下がることとなる。

Case4

場所: オーストラリア
風車: Vestas V66
設置: 2004年

Speed Contour

ステップ2ケース4 Speed Contour風力アニメzoom

地形

ステップ2ケース4 風力地形画像zoom

Shading

ステップ2ケース4 Shading風力アニメzoom

崖を吹きあがった風が剥離し、手前の谷で渦を巻くことで乱流となっている。ヨーギア・ヨーリング、増速機の破損、ブレードの大きな亀裂、ナセルフレームの割れが発生した。これらを防ぐために、この風向(卓越風向)に対し全風速で運転停止を実施している。

Case5

プロジェクト名: 輝北
場所: 鹿児島県鹿屋市
風車: Siemens (Bonus) 1.3MW
設置: 2004年2月

Speed Contour & Vector

ステップ2ケース5 Speed Contour & Vector風力アニメzoom

地形

ステップ2ケース5 風力地形画像zoom

7年間の運転データでは、右側の風車はヨーギアとヨーモーターの合計故障件数が突出している。右側の風車の上流には複数の尾根がある。CFDの結果により、この尾根により流れが剥離し、乱れを引き起こしていることがわかる。風車ローター面内で大きな風速差が生じており、ヨーギア・ヨーモーターへの故障につながった。

Case6

プロジェクト名: 新出雲
場所: 島根県出雲市
風車: Vestas V90
設置: 2009年4月

Shading

ステップ2ケース6 Shading風力アニメzoom

地形

ステップ2ケース6 風力地形画像zoom

Shading & Vector

ステップ2ケース6 Shading & Vector風力アニメzoom

この風車のブレードがタワーと接触し、破損しました。風車周辺の地形は極めて複雑であり、したがって風も非常に複雑な乱れた流れになる。ブレードが大きくたわみ、タワー接触が発生させるのは、風車の上部よりも強い風を下部で受ける場合であり、その状況をCFDの結果が示しています。

03

風況に応じた風車機種選定

安定した運転・発電に不可欠

風車選定は登山靴選びと似ている。自分の足にフィットするのはもちろんですが、靴の種類も非常に重要。軽いハイキングには、靴底が軟らいトレッキングシューズが向いてる、重いリュックを背負って、長時間歩くなら厚い靴底のほうが適切。沢登なら滑りにくい特殊な靴がある。厳冬期の冬山なら、保温性の高い靴は絶対に欠かせない。要するに、目的や地面状態によって適切な靴を選ぶのが大切です。同様に、複雑な地形上に風車を選定する際には、サイト内の乱流(地面状態)及び風車機種の構造(靴の種類・特徴)を理解することが必要。同じ乱流クラスでも、風車機種によって、設計・構造は大きく異なる。サイトの乱流に耐えれない風車を選択すると、壊れる原因となり、稼働率が下がります。逆に、サイトの乱流に耐えられる風車を選んだら稼働率の低下が避けられます。また、風車の構造上最も弱い部分に強い衝撃が加わったら、その部分が頻繁に壊れる可能性があるため、高度な知識と経験に基づく、事前対策、破損頻度などを風車メーカーと協議、確認します。プロジェクト期間は20年と長いので、機種選定を慎重に行いましょう。

技術文

04

風力発電設備の適切な検査と保守

常に万全な状態で稼働

風車は見た目よりは複雑な機械であり、時には厳しい環境に晒されて運転されています。その為にその運用・保守は一般的な工業機械などと比べても決して易しいなどと言うことはなく、むしろ難しい局面もあるのです。定期的に適切な点検や保守作業が実施されなければ不具合状態が蓄積して運転不能となり、また、損傷箇所が生じれば部位によっては補修部品の到着を待って長期間の運転停止を余儀なくされて稼働率と共に発電電力量も大幅に低下してしまいます。とりわけ複雑地形の乱流の影響が懸念されるサイトにおいては設計上の想定を超えた荷重やその変動が作用している可能性があり,通常では何でもないような部位に問題が発生していることがあります。その為、乱流の影響と風車の特性を十分に考慮した点検・保守が重要になってきます。そのような点検・保守を実施するために必要なことはなんでしょう?風車についての基礎的な知識はもちろんですが、とりわけ重要なのは風車それぞれの機種についての設計的な知見と実環境での運転・保守・修理・改良の経験なのです。

技術文